CONTENTS
- 1. S電子の全面ストライキ事態、なぜ産業界全体が緊張したのか

- - 両者の立場の比較
- - 半導体産業の特性と全面ストライキへの懸念拡大
- 2. 全面ストライキ直前まで続いた交渉過程

- - 交渉の進行の流れ
- - 政府仲裁後の暫定合意案のとりまとめ
- 3. 全面ストライキ留保後、労使対立から労労対立へ拡大

- - 現在の争点
- - 裁判所の判断と現在の状況
- - 法的争点
- 4. 事業部間の対立が組織リスクへ拡大する構造

- - 企業が検討すべきリスク
- - 複数労組・争議行為への対応体制の点検の必要性
- 5. 大倫の企業法務グループによる労務リスク対応の助言

- - 法務法人大倫の戦略
1. S電子の全面ストライキ事態、なぜ産業界全体が緊張したのか

S電子の労使対立の中心には成果給制度がありました。
労組側は、従来の超過利益成果給(OPI)の仕組みが半導体事業の成果を十分に反映していないと主張しました。
特にDS部門の業績や営業利益の規模に比べて報酬水準が限定的である点を問題視しました。
一方、会社側は事業部ごとの業績の違いを考慮した成果主義原則を維持する必要性を強調しました。
両者の立場の比較
区分 | 労組側の要求 | 会社側の立場 |
|---|---|---|
成果給の仕組み | 従来のOPI(超過利益成果給)の上限構造を廃止し、業績に比例した成果給の支給を要求 | 過度な成果給の拡大は報酬制度の運用負担が大きくなり得るとの立場を維持 |
営業利益の配分 | 半導体事業の営業利益の一定割合を成果給の財源として別途配分するよう要求 | 事業部ごとの業績の違いを反映した差等支給構造の必要性を強調 |
特別成果給 | DS部門を対象とする特別経営成果給制度の新設および長期的な制度化を要求 | 特別報酬は可能だが、成果主義原則の範囲内で運用する必要があるとの立場 |
赤字事業部の報酬 | 赤字事業部にも一定水準以上を共同配分する方式を要求 | 赤字事業部まで同一水準で報酬を与えると成果制度の基準が弱まる懸念を提起 |
労組側は、半導体事業の成果が会社全体の業績に及ぼす影響が大きいだけに、従来のOPI制度だけではDS部門の成果が十分に反映されないと主張しました。
特に営業利益に基づく特別成果給を別途制度化し、上限を設けずに運用すべきだとの立場を維持しました。
一方、会社側は事業部ごとの業績の違いと成果主義原則を併せて考慮すべきだとの立場を続けました。
特に、赤字事業部まで同一基準で報酬を与えると成果報酬制度の運用基準が揺らぎ得る点を強調し、事業部ごとの差等支給構造の維持を提示しました。
半導体産業の特性と全面ストライキへの懸念拡大
今回の事態が産業界全般で注目された理由は、半導体産業の特性と結びついていました。
半導体産業は、生産工程が24時間連続で稼働する構造を持っています。
特に、生産ラインの一部に支障が生じただけでも全体の生産日程や納期構造に影響を与え得るという点で、一般の製造業より波及力の大きい産業と評価されます。
このため、S電子の全面ストライキの可能性が現実味を帯びると、産業界では生産の支障やサプライチェーンリスク拡大の可能性に対する緊張感も高まりました。
今回の事態で併せて指摘された懸念要素 | 主な内容 |
|---|---|
生産リスク | 半導体生産ラインの一部に支障が生じただけでも全体の工程日程や納期構造に影響を与え得るという懸念 |
サプライチェーンリスク | グローバル顧客企業への供給日程の遅延や協力会社の生産支障につながる可能性を指摘 |
投資市場リスク | 全面ストライキが長期化した場合の業績の不確実性や投資心理の萎縮の可能性が浮上 |
人材リスク | 中核となる研究・生産人材の離脱や組織内部の結束力低下の可能性を提起 |
経営リスク | 政府仲裁の拡大や労使紛争の長期化に伴う経営負担の増加への懸念 |
特に半導体産業は、生産工程の連続性やグローバルなサプライチェーンへの依存度が高い構造を持っているため、全面ストライキの可能性だけでも市場の緊張感が急速に高まりました。
AI半導体をめぐる競争が激化するなか、生産の支障への懸念が現実になれば主要顧客企業との取引構造や投資市場にも影響を与え得るとの分析が続き、雇用労働部と中央労働委員会が積極的に仲裁手続きに参加した背景にも、こうした産業的影響が併せて作用したとの評価が出ています。
2. 全面ストライキ直前まで続いた交渉過程
労使は2025年末から賃金交渉を進めましたが、成果給の財源と配分構造をめぐって立場の隔たりを埋められませんでした。
その後、労組は中央労働委員会に調整を申請し、調整中止の決定を経て争議権を確保しました。
特に労組側は全面ストライキの賛否投票を実施し、圧力の水準を高めました。
交渉の進行の流れ
交渉の進行の流れ | 主な内容 |
|---|---|
賃金交渉の進行 | 成果給の財源拡大と特別成果給の制度化をめぐり労使間の立場の隔たりが継続 |
交渉決裂 | 成果給の配分構造と事業部ごとの差等支給の問題をめぐり合意に失敗 |
中労委の調整中止 | 中央労働委員会の調整不成立を経て労組側が争議権を確保 |
全面ストライキの推進 | 組合員の賛否投票の実施とともに全面ストライキの日程を公開し圧力の水準を拡大 |
政府の仲裁 | 雇用労働部と中労委が追加交渉と労使対話の仲裁に参加 |
全面ストライキの可能性が現実味を帯びるなか、政府も仲裁に参加しました。
特に半導体産業の特性上、生産の支障がサプライチェーンや投資市場に影響を与え得るとの懸念が高まり、その後の追加交渉を経て暫定合意案がまとめられました。
政府仲裁後の暫定合意案のとりまとめ
雇用労働部の仲裁の下で追加交渉が進められ、労使は特別経営成果給の仕組みを含む暫定合意案をまとめました。
今回の合意案にはDS部門の成果給制度の改編や自社株の支給方式などが含まれ、半導体事業部を中心とする報酬構造が本格的に反映されたとの評価が出ました。
暫定合意案の主な内容
▶ 特別成果給 : DS部門を対象とする特別経営成果給を新設し、事業成果の10.5%を財源として活用する仕組みを整備
▶ 成果給の運用方式 : DS特別成果給を上限の制限なく運用し、一部は事業部の共同配分構造を反映
▶ 支給方式 : 特別成果給の税引後の金額を自社株の形で支給し、一部の株数には一定期間の売却制限を適用
▶ 赤字事業部の基準 : 赤字事業部への差等支給(ペナルティ)の適用は一定期間の猶予を経て施行することで調整
▶ 全面ストライキ計画 : 労組側は全面ストライキの日程を暫定的に留保し、暫定合意案の賛否投票を実施することを決定
ただし、事業部間の報酬の違いに関する問題は、その後の労労対立につながりました。
特に、DX部門の一部の従業員の間では、成果給制度が特定の事業部を中心に設計されているとの反発も続きました。
3. 全面ストライキ留保後、労使対立から労労対立へ拡大
全面ストライキは留保されましたが、対立がすべて解消されたわけではないとの分析も続いています。
特に、DX部門を中心とする労組は、暫定合意案がDS部門を中心に設計されていると主張し、代表労組との対立を続けました。
この過程で暫定合意案の投票権をめぐる問題まで浮上し、内部対立が本格的に拡大しました。
現在の争点
▶ 労労対立 : 代表労組と少数労組の間で交渉権限や意思決定の範囲をめぐる衝突が発生
▶ 投票権論争 : 共同交渉団からの脱退後、暫定合意案の賛否投票への参加資格の問題を提起
▶ 公正代表義務 : 特定の事業部を中心とする交渉構造が少数労組への差別問題につながり得るとの指摘が拡大
ただし、事業部間の報酬の違いに関する問題は、その後の労労対立につながりました。
DX部門を中心とする労組は、共同交渉団から脱退した後も組合員の投票参加は可能だと主張し、投票中止の仮処分申請と投票無効訴訟を進める計画を明らかにしました。
一方、代表労組側は、共同交渉団から脱退した労組には暫定合意案の投票権限がないとの立場を維持しました。
これにより対立は、成果給の配分の問題を超えて、交渉代表労組の権限の範囲や少数労組の参加の問題にまで拡大しました。
実際にDX部門の組合員らは、超企業労組を相手取って交渉中止の仮処分申請まで提起し、法的対応に乗り出しました。
裁判所の判断と現在の状況
しかし韓国の裁判所(裁判部)は、交渉要求案自体に重大な瑕疵が十分に疎明されたとは認めがたいと判断し、仮処分申請を却下しました。
つまり、交渉過程で組合員の意見を確認する手続きが一部進められた点などを併せて考慮したものです。
これにより今回の事態では、複数労組の事業場で繰り返し問題となる『公正代表義務』の問題も改めて取り上げられています。
特に、特定の事業部を中心とする報酬制度や交渉構造が公平性の論争につながる場合、交渉代表労組が他の労組や組合員の利害関係を十分に反映したかどうかが主要な争点となっています。
実際に今回の事例でも、DS・DX部門間の報酬制度の違いと暫定合意案の投票権の問題が絡み合い、交渉代表労組の権限の範囲や少数労組の参加の問題が引き続き議論されている状況です。
法的争点
① 交渉代表労働組合と使用者は、交渉窓口一本化手続きに参加した労働組合またはその組合員の間で、合理的な理由なく差別をしてはならない。
② 労働組合は、交渉代表労働組合と使用者が第1項に違反して差別をした場合には、その行為があった日(団体協約の内容の一部または全部が第1項に違反する場合には団体協約の締結日をいう)から3か月以内に、大統領令で定める方法と手続きに従い、労働委員会にその是正を要請することができる。
③ 労働委員会は、第2項による申請について、合理的な理由なく差別したと認めたときは、その是正に必要な命令をしなければならない。
複数労組の事業場では、交渉代表労組が全体の労働組合と組合員の利害関係を併せて考慮しなければならないという問題が引き続き提起される状況です。
特に、特定の事業部を中心とする報酬制度や交渉構造が公平性の論争に広がる場合、公正代表義務違反の有無も主要な争点として取り上げられます。
今回の事例も、労使対立を超えて事業部・職群・労組間の利害関係の衝突が組織運営リスクへ拡大し得るという点を示したとの評価が出ています。
4. 事業部間の対立が組織リスクへ拡大する構造
今回のS電子の事例では、成果給をめぐる対立が労使間の衝突にとどまらず、事業部間の利害関係の衝突にまで拡大する流れが現れています。
特に、DS部門を中心に設計された特別成果給の仕組みに対してDX部門の構成員の反発が続き、対立は成果給の規模を超えて代表労組の権限や投票権の問題にまで広がっている状況です。
これは、近年、成果主義に基づく報酬制度が強化される産業で現れる構造的な変化とも結びついています。
事業部ごとの収益性や業績の違いが大きくなるほど、同じ賃金交渉の過程でも構成員が期待する報酬水準や利害関係もまた異なり得るためです。
企業が検討すべきリスク
▶ 代表労組・少数労組の間で交渉権限や意思決定の範囲をめぐる衝突が発生
▶ 職群・事業部ごとの利害関係の違いにより組織内部の対立や結束力低下の問題が拡大
▶ 仮処分・労働委員会・損害賠償など労使に関する法的紛争が同時多発的に進行する状況
▶ 長期化する労使対立が生産日程の支障、中核人材の離脱、サプライチェーン運用の負担につながる流れ
実際に今回の事例でも、事業部間の成果給の格差の問題が労労対立や投票権の論争にまで及び、組織内部の衝突へ拡大する様相が現れました。
これにより企業の立場では、団体交渉そのものだけでなく、事業部ごとの報酬制度や複数労組の構造、内部の意思決定過程で生じ得るリスクまで併せて点検する必要性が高まっています。
複数労組・争議行為への対応体制の点検の必要性
近年は、労働組合及び労働関係調整法の改正案、いわゆる『黄色い封筒法』をめぐる議論も続き、企業の労務リスク管理の範囲も次第に広がる流れです。
特に、使用者の範囲拡大や損害賠償の制限の問題は、製造業や下請け構造の産業で主要な争点として取り上げられています。
主な争点 | 主な内容 |
|---|---|
交渉構造の問題 | 代表労組・少数労組間の権限の衝突や参加範囲の論争 |
公正代表義務の問題 | 特定の事業部を中心とする交渉構造に対する公平性の問題 |
使用者の範囲拡大 | 元請け企業の使用者性を認める範囲拡大の議論 |
損害賠償の制限 | 争議行為に関する損害賠償の範囲制限の議論 |
下請け労組への対応 | 元請けを対象とする交渉要求の可能性の拡大 |
交渉過程の記録管理や意思決定手続きの整備、事業部・職群ごとの利害関係の衝突の可能性の検討、争議行為発生時の生産・サプライチェーン対応体制の整備なども併せて検討の対象となっています。
したがって企業の立場では、団体交渉そのものだけに対応するよりも、複数労組の構造、事業部ごとの報酬制度、組織内部の意思決定過程まで併せて考慮した総合的な労務リスク対応体制の整備が必要です。
5. 大倫の企業法務グループによる労務リスク対応の助言
複数労組の構造と成果報酬を中心とする労使対立が拡大する近年の流れでは、団体交渉そのものよりも交渉構造や内部の意思決定過程がより大きな紛争につながる場合も現れています。
特に、事業部ごとの利害関係の衝突や公正代表義務の問題、争議行為への対応、サプライチェーンリスクまで併せて結びつく場合、企業の立場では労務の問題を人事の領域だけに限定して対応することが難しい状況も生じています。
これにより企業は、団体交渉の過程だけでなく、複数労組への対応構造、組織運営体制、争議行為の発生可能性まで総合的に検討する必要があります。
法務法人大倫の企業法務グループは、労働弁護士、企業弁護士、労務士、会計士などが協業し、団体交渉や労使紛争の過程で生じ得る企業リスク全般についての助言を提供しています。
法務法人大倫の戦略
▶ 成果給・インセンティブ・事業部ごとの報酬制度の設計過程で生じ得る公平性・労務リスクの検討および対応戦略の助言
▶ 争議行為・全面ストライキ発生時の労働委員会対応、仮処分、損害賠償など民事・刑事上の紛争対応体制の構築支援
▶ 生産の支障・サプライチェーンリスク発生の可能性を考慮した企業内部の対応プロセスおよび危機管理体制の助言
▶ 労使対立の長期化の過程で生じ得る評判リスクや対外コミュニケーションの問題への対応方向の検討
労使対立に対する専門的な法的対応が必要な場合は🔗企業弁護士 法律相談予約を通じて、企業の状況に合った労務・法律対応の方向をご検討ください。











